【シンデレラ・リベンジ】
この不運なレースの後、私の頭に浮かんだのは昨年の皐月賞の事です。
1番人気に推された逃げ馬アイネスフウジンがスタート直後に隣のホワイトストーンに
激しくぶつけられ、先手が取れずにゴール寸前ハクタイセイに差し切られたあのレース。
ルーブルの桜花賞と同じくアイネスフウジンの皐月賞も三冠レースの中で
最も勝てる可能性の高い距離だと一般的には思われていました。
しかしながら、日本ダービーの逃げ切りは至難と言われながら大方の予想を覆して
府中の2400Mをを鮮やかに逃げ切って見せたのです。
「気にするな栄治、負けた時に次に勝つ因を作るんだ。」
皐月賞敗戦後、中野栄治騎手に向けた加藤修甫調教師の言葉が蘇ります。
(そうじゃ、落ち込んでる場合じゃないぞ。この敗戦をオークスに生かさんと。)
それでも正直私にはアイネスフウジンの時のような自信はありませんでした。
フウジンは心拍数の少ない強心臓の持ち主で父も名ステイヤーを数多く輩出している
シーホーク、世間では〝早熟マイラー"扱いでしたが、私は長距離適性は
間違いなくあると確信できたのです。
ルーブルの場合も父ラシアンルーブルに関しては自身が長距離血統で
芝2400Mのオープン勝ちがあるエリモパサーも輩出しており、テスコボーイの
スピード色が強いとは言ってもアイネスフウジンと同じようにスタミナも兼ね備えている
可能性はあると思えました。
ただ、フウジンと違うのはあの激し過ぎる気性、2400Mという距離を持ちこたえるには
レース前、そして道中の消耗を極力抑え込む必要があり、それをやってのけるのは
至難の業に思えました。
それからもう一つ、オークスの枠順発表で更なる試練が待ち構えていたのです。
ルーブルが入ったのは何という事か逃げ馬には最も厳しい大外20番枠、
あのアクシデント以来、運に見放されてしまったのでしょうか。
しかし、決まったものは嘆いても仕方がありません、この条件でいかに勝利への道を
探していくかなのです。
オークス当日、私は気合いを入れて広島市内のWINSへ出かけました。
早々にルーブルの単勝馬券を購入し、レースが始まるまでの空き時間に
VTRルームに入るとラシアンルーブルと同配合であるマルゼンスキーの
朝日杯3歳S、そしてアイネスフウジンの日本ダービーを再生して
逃げ切りへのイメージを膨らませました。
オークスの1番人気はもちろん桜花賞馬シスタートウショウ。
距離不足と思われていた桜花賞で稍重馬場の中、1分33秒8のレコードタイムを叩き出して
2馬身差の快勝、その上名門トウショウ牧場産の良血馬とあっては単勝2.1倍と断トツの
支持を集めたのも当然でしょう。
続く2番人気には7.9倍でツインヴォイス。
3連勝で制した前走忘れな草賞(OP・芝2000M)では同じく芝2000MのG2、
サンスポ4歳牝馬特別の勝馬ヤマニンマリーンを2馬身突き放す強さを見せており、
好位から早目進出で抜け出す安定感抜群の脚質は脅威です。
3番人気には武豊操る社台ブランドの良血スカーレットブーケが9.5倍で続き、
イソノルーブルはようやくその次の4番人気。
桜花賞であれだけの人気を集めながらたった一度の敗戦、
それも大きなアクシデントによるものであったにもかかわらず
単勝オッズは12.1倍とこの馬への支持は急落していました。
しかし、桜花賞敗戦の悔しさは管理する清水厩舎スタッフを燃え上らせていたのです。
どうしたらルーブルのテンションを上げずにゲートインさせられるのか?
陣営が講じた策は覆面を二重にして雑音をシャットアウトする事でした。
そしてブリンカーまで装着してパドックに登場したルーブル、これが功を奏して
入れ込みはありません。
そして、ゲートイン直前にブリンカーは外され落ち着いたまま大外枠に入ったルーブル。
一瞬の静寂の後、運命のゲートは開きました。
大外枠を見つめる私の目に入ったのは素晴らしいスタートを切ったルーブルの姿でした。
引っ掛かる事もなくスムーズに加速していき、1コーナーを見事先頭で回っていきます。
「よしっ!」
私は小さく握りこぶしを作りました。
しかし勝負はこれから、ここからは松永幹夫騎手とルーブルとの戦いです。
桜花賞での敗戦は松永騎手を失意のどん底に叩き落しました。
有望若手騎手として頭角を現していた松永騎手でしたが未だG1での勝利は無く、
ルーブルと臨んだ桜花賞がこの上ないチャンスだったのです。
それをあのアクシデントによりチャンスを逃し、3歳年下であるシスタートウショウの
角田騎手に先を越されてしまったわけですからその心中は察して余りあります。
(頼む、何とか我慢してくれルーブル)
そう祈りながら乗っているのが分かるほど松永騎手はルーブルの上で微動だにしません。
幸い競りかけて来る馬もなく、思い描いた通りのスローペースに持ち込んだ
ルーブル&松永幹夫、あと少しの辛抱です。
そして遂に4コーナーを回り先頭で直線へ!
ルーブルの直後をマークして来ていたツインヴォイス、スカーレットブーケが一気に
襲い掛かってきます。
しかし松永騎手は慌てません、まだゴーサインは出さずぐっと我慢。
そして坂を上り切ったあたりでしょうか、いよいよツインヴォイスに交わされようかと
いうところで松永騎手は手綱をしごき、ルーブルを解き放ちます。
無駄な消耗を一切していないルーブルにはやはり余力がありました。
ジワリジワリとツインヴォイスを引き離していきます。
(よし、勝てる!)
そう思った時です、大外を猛然と追い込んで来る1頭の馬が目に入りました、
シスタートウショウです!
スタートでやや出遅れ、スローペースを後方からの追走になっていたにもかかわらず
この追い上げ、何という強さでしょう。
あっという間にツインヴォイスを交わすとルーブルに馬体を合わせて追い詰めます。
ゴールまであと少し、最後の力を振り絞って粘るルーブル、死力を尽くして追う
シスター、その差はあと僅か!
「頑張れ、頑張れルーブル!」
普段は猫のように大人しい私ですが思わず大きな声が出ていました。
そしてほぼ鼻面を合わせてゴール板を通過・・・
「よっしゃあ! 残った~!」
写真判定の文字が掲示されましたが私にははっきり判りました、
勝ったのはルーブルです。
正直2400Mでの力はシスタートウショウの方が上だと思います。
しかし清水厩舎スタッフの執念が、松永幹夫騎手の渾身の騎乗が、そして何より
その熱い想いに応えて持てる力を最大限に出し切ったルーブル自身の頑張りが
見事勝利を引き寄せたのです。
「あの桜花賞があったから今日の結果があるんだ」
清水調教師の言葉はまさにあの加藤修甫調教師の言葉を受けて返したかのようです。
そして、
「もうG1なんて一生勝てないんじゃないかと思いました。」
勝利ジョッキーインタビューで桜花賞レース後の心境をこう語った松永幹夫騎手。
ですが、この上なく勝気なルーブルを見事になだめ切った経験は大きな糧となり、
この後ファビラスラフインで秋華賞、キョウエイマーチ、チアズグレイスで桜花賞、
ファレノプシスでエリザベス女王杯、ヘブンリーロマンスで天皇賞秋と
牝馬とのタッグでG1を勝ちまくり〝牝馬の松永幹夫"の名を欲しいままにする事となるのです。
ルーブルはこの後、秋のエリザベス女王杯に十分に態勢が整わない中、
ぶっつけで出走しますがレース中に故障を発生して16着に敗退、そのまま引退となりました。
実質オークスで燃え尽きた形になりましたが、無名の小牧場に生まれ、見栄えもせず
安値で抽選馬として買われたルーブルが大きな挫折を乗り越えて樫の女王にまで
上り詰めたストーリーはまさにシンデレラ。
彼女を応援しながら共に泣いて笑ったあの春の思い出は、今でも私の胸を熱くします。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いかがだったでしょうか(^^)/
桜花賞で負けたからこそ、陣営も工夫を凝らし、松永幹騎手(現調教師)
もオークスで勝つために極限まで集中できたんだと思います。
そしてその経験が騎乗技術や育成技術の向上に活かされ、さらに
それは次の世代の騎手に受け継がれれいく・・・。
そう思うとあの年のオークスも今年のオークスに繋がっているわけで
今度は今年のドラマがどう未来に花開いていくのか、本当に楽しみになります♪
さて、今年のシンデレラは・・・
この不運なレースの後、私の頭に浮かんだのは昨年の皐月賞の事です。
1番人気に推された逃げ馬アイネスフウジンがスタート直後に隣のホワイトストーンに
激しくぶつけられ、先手が取れずにゴール寸前ハクタイセイに差し切られたあのレース。
ルーブルの桜花賞と同じくアイネスフウジンの皐月賞も三冠レースの中で
最も勝てる可能性の高い距離だと一般的には思われていました。
しかしながら、日本ダービーの逃げ切りは至難と言われながら大方の予想を覆して
府中の2400Mをを鮮やかに逃げ切って見せたのです。
「気にするな栄治、負けた時に次に勝つ因を作るんだ。」
皐月賞敗戦後、中野栄治騎手に向けた加藤修甫調教師の言葉が蘇ります。
(そうじゃ、落ち込んでる場合じゃないぞ。この敗戦をオークスに生かさんと。)
それでも正直私にはアイネスフウジンの時のような自信はありませんでした。
フウジンは心拍数の少ない強心臓の持ち主で父も名ステイヤーを数多く輩出している
シーホーク、世間では〝早熟マイラー"扱いでしたが、私は長距離適性は
間違いなくあると確信できたのです。
ルーブルの場合も父ラシアンルーブルに関しては自身が長距離血統で
芝2400Mのオープン勝ちがあるエリモパサーも輩出しており、テスコボーイの
スピード色が強いとは言ってもアイネスフウジンと同じようにスタミナも兼ね備えている
可能性はあると思えました。
ただ、フウジンと違うのはあの激し過ぎる気性、2400Mという距離を持ちこたえるには
レース前、そして道中の消耗を極力抑え込む必要があり、それをやってのけるのは
至難の業に思えました。
それからもう一つ、オークスの枠順発表で更なる試練が待ち構えていたのです。
ルーブルが入ったのは何という事か逃げ馬には最も厳しい大外20番枠、
あのアクシデント以来、運に見放されてしまったのでしょうか。
しかし、決まったものは嘆いても仕方がありません、この条件でいかに勝利への道を
探していくかなのです。
オークス当日、私は気合いを入れて広島市内のWINSへ出かけました。
早々にルーブルの単勝馬券を購入し、レースが始まるまでの空き時間に
VTRルームに入るとラシアンルーブルと同配合であるマルゼンスキーの
朝日杯3歳S、そしてアイネスフウジンの日本ダービーを再生して
逃げ切りへのイメージを膨らませました。
オークスの1番人気はもちろん桜花賞馬シスタートウショウ。
距離不足と思われていた桜花賞で稍重馬場の中、1分33秒8のレコードタイムを叩き出して
2馬身差の快勝、その上名門トウショウ牧場産の良血馬とあっては単勝2.1倍と断トツの
支持を集めたのも当然でしょう。
続く2番人気には7.9倍でツインヴォイス。
3連勝で制した前走忘れな草賞(OP・芝2000M)では同じく芝2000MのG2、
サンスポ4歳牝馬特別の勝馬ヤマニンマリーンを2馬身突き放す強さを見せており、
好位から早目進出で抜け出す安定感抜群の脚質は脅威です。
3番人気には武豊操る社台ブランドの良血スカーレットブーケが9.5倍で続き、
イソノルーブルはようやくその次の4番人気。
桜花賞であれだけの人気を集めながらたった一度の敗戦、
それも大きなアクシデントによるものであったにもかかわらず
単勝オッズは12.1倍とこの馬への支持は急落していました。
しかし、桜花賞敗戦の悔しさは管理する清水厩舎スタッフを燃え上らせていたのです。
どうしたらルーブルのテンションを上げずにゲートインさせられるのか?
陣営が講じた策は覆面を二重にして雑音をシャットアウトする事でした。
そしてブリンカーまで装着してパドックに登場したルーブル、これが功を奏して
入れ込みはありません。
そして、ゲートイン直前にブリンカーは外され落ち着いたまま大外枠に入ったルーブル。
一瞬の静寂の後、運命のゲートは開きました。
大外枠を見つめる私の目に入ったのは素晴らしいスタートを切ったルーブルの姿でした。
引っ掛かる事もなくスムーズに加速していき、1コーナーを見事先頭で回っていきます。
「よしっ!」
私は小さく握りこぶしを作りました。
しかし勝負はこれから、ここからは松永幹夫騎手とルーブルとの戦いです。
桜花賞での敗戦は松永騎手を失意のどん底に叩き落しました。
有望若手騎手として頭角を現していた松永騎手でしたが未だG1での勝利は無く、
ルーブルと臨んだ桜花賞がこの上ないチャンスだったのです。
それをあのアクシデントによりチャンスを逃し、3歳年下であるシスタートウショウの
角田騎手に先を越されてしまったわけですからその心中は察して余りあります。
(頼む、何とか我慢してくれルーブル)
そう祈りながら乗っているのが分かるほど松永騎手はルーブルの上で微動だにしません。
幸い競りかけて来る馬もなく、思い描いた通りのスローペースに持ち込んだ
ルーブル&松永幹夫、あと少しの辛抱です。
そして遂に4コーナーを回り先頭で直線へ!
ルーブルの直後をマークして来ていたツインヴォイス、スカーレットブーケが一気に
襲い掛かってきます。
しかし松永騎手は慌てません、まだゴーサインは出さずぐっと我慢。
そして坂を上り切ったあたりでしょうか、いよいよツインヴォイスに交わされようかと
いうところで松永騎手は手綱をしごき、ルーブルを解き放ちます。
無駄な消耗を一切していないルーブルにはやはり余力がありました。
ジワリジワリとツインヴォイスを引き離していきます。
(よし、勝てる!)
そう思った時です、大外を猛然と追い込んで来る1頭の馬が目に入りました、
シスタートウショウです!
スタートでやや出遅れ、スローペースを後方からの追走になっていたにもかかわらず
この追い上げ、何という強さでしょう。
あっという間にツインヴォイスを交わすとルーブルに馬体を合わせて追い詰めます。
ゴールまであと少し、最後の力を振り絞って粘るルーブル、死力を尽くして追う
シスター、その差はあと僅か!
「頑張れ、頑張れルーブル!」
普段は猫のように大人しい私ですが思わず大きな声が出ていました。
そしてほぼ鼻面を合わせてゴール板を通過・・・
「よっしゃあ! 残った~!」
写真判定の文字が掲示されましたが私にははっきり判りました、
勝ったのはルーブルです。
正直2400Mでの力はシスタートウショウの方が上だと思います。
しかし清水厩舎スタッフの執念が、松永幹夫騎手の渾身の騎乗が、そして何より
その熱い想いに応えて持てる力を最大限に出し切ったルーブル自身の頑張りが
見事勝利を引き寄せたのです。
「あの桜花賞があったから今日の結果があるんだ」
清水調教師の言葉はまさにあの加藤修甫調教師の言葉を受けて返したかのようです。
そして、
「もうG1なんて一生勝てないんじゃないかと思いました。」
勝利ジョッキーインタビューで桜花賞レース後の心境をこう語った松永幹夫騎手。
ですが、この上なく勝気なルーブルを見事になだめ切った経験は大きな糧となり、
この後ファビラスラフインで秋華賞、キョウエイマーチ、チアズグレイスで桜花賞、
ファレノプシスでエリザベス女王杯、ヘブンリーロマンスで天皇賞秋と
牝馬とのタッグでG1を勝ちまくり〝牝馬の松永幹夫"の名を欲しいままにする事となるのです。
ルーブルはこの後、秋のエリザベス女王杯に十分に態勢が整わない中、
ぶっつけで出走しますがレース中に故障を発生して16着に敗退、そのまま引退となりました。
実質オークスで燃え尽きた形になりましたが、無名の小牧場に生まれ、見栄えもせず
安値で抽選馬として買われたルーブルが大きな挫折を乗り越えて樫の女王にまで
上り詰めたストーリーはまさにシンデレラ。
彼女を応援しながら共に泣いて笑ったあの春の思い出は、今でも私の胸を熱くします。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いかがだったでしょうか(^^)/
桜花賞で負けたからこそ、陣営も工夫を凝らし、松永幹騎手(現調教師)
もオークスで勝つために極限まで集中できたんだと思います。
そしてその経験が騎乗技術や育成技術の向上に活かされ、さらに
それは次の世代の騎手に受け継がれれいく・・・。
そう思うとあの年のオークスも今年のオークスに繋がっているわけで
今度は今年のドラマがどう未来に花開いていくのか、本当に楽しみになります♪
さて、今年のシンデレラは・・・
Comment*2
