けいけん豊富な毎日

奇跡の名牝キンチェム物語part1   担【けん♂】

秋華賞では今後の牝馬戦線を引っ張る馬の登場を期待したいものですが
世界にはもっととんでもない記録を残した牝馬がいます。
競馬の語り部、temporalisさんにハンガリーの奇跡、キンチェムの物語を
寄稿して頂いたのでご紹介いたします♪

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生涯無敗》・・・何という魅惑的な響きでしょう。
勝負事に携わる者ならば誰もが憧れる不可能に近い究極の到達点。
日本競馬界(中央、サラブレッド)では女傑クリフジが11戦11勝、
トキノミノルがダービーまで10戦10勝という記録がありますが、
クリフジは早期引退、トキノミノルはその後破傷風で急逝してしまいます。
無敗で3冠を制したシンボリルドルフやディープインパクトでさえ、
生涯無敗という偉業は達成できませんでした。
近年、豪州のブラックキャビアという牝馬が25戦全勝という
驚異的な戦績のまま引退し世界を驚かせましたね。
では生涯無敗の世界記録とはどれほどのものなのでしょう?
今回はその記録の主〝ハンガリーの奇跡"キンチェムの物語です。

まだ競馬初心者だった頃の私は、とある競馬誌で驚くべき記事を目にしました。
そこには競馬における歴代無敗最多勝記録が何と54戦54勝と書かれて
いるではありませんか!
しかもその馬は牝馬だといいます。
私は、にわかには信じられないような大きな衝撃を受けました。
後に詳しく彼女の戦績を知るにつれ、その畏怖の念は益々大きなものへと
膨らんでいったのです。

キンチェムの母ウォーターニンフはハンガリーの1000ギニーに優勝した名牝でしたが、
キンチェムの生産主ブラスコヴィッチは最初この馬を自分の乗馬用に購入したそうです。
しかし、周囲に説得され繁殖牝馬として使うこととなり、1年目から
ハンガリーオークス馬ハマトを輩出しました。
そして2年目に生まれたのがキンチェムなのですが、実は牧場のミスで
種牡馬を取り違えての誕生だそうで、運命とは不思議なものです。

しかも、キンチェムはひょろりとした暗い毛色の栗毛で見栄えが悪く、
7頭まとめて700ポンドの取引の中の1頭でしたが購入者にハネられてしまい、
引き取ってもらえませんでした。
そんなキンチェムでしたがその素質を見抜いた意外な人物が・・・
ある日牧場にロマと呼ばれる移動型民族が馬泥棒に入り、
盗んだ馬がキンチェムだったのです。
その後捕まった犯人が「どうして他にいい馬がたくさんいたのにあの馬を選んだんだ?」
との問いかけにこう答えたそうです。

「確かにあの馬は外見は他の馬に見劣りする。
 でもそれを補って余りある勇気を持っていたんだ」

こうして生産者ブラスコヴィッチの所有馬として走ることとなった
キンチェムはベルリン競馬場の芝1000m戦でデビューし、
4馬身差の圧勝でその競争生活をスタートさせました。
2歳時には947M~1600Mまでの短い距離を4カ国に跨る全て違う競馬場で
10戦10勝、特筆すべきは5戦目から見せ始めたその異常なる強さです。
5戦目の1000M戦では10馬身差、6戦目の同じく1000M戦では大差勝ち、
7戦目の1200M戦でも大差勝ちと、こんな短距離戦でこの着差、尋常ではありません。
続く8戦目の948M戦こそ1/2馬身差と一息ついた格好ですが、
9戦目の1600M戦ではまたもや10馬身差、10戦目の1400M戦も大差勝ちと
底知れぬ強さを見せ続けたのです。


それから5ヶ月間の休養を経て3歳戦がスタート。
初の1800M戦を勝利するとハンガリーの2000ギニーに相当する
ネムゼティ賞(芝1600M)に出走、ここでも大差勝ちの圧勝を飾ります。
次は母ウォーターニンフも制しているハンガリー1000ギニーに相当する
ハザフィ賞(芝1600M)に出走し、馬なりで1馬身1/2差をつけ見事
母子制覇を果しました。

・・・と軽い感じで書きましたが、このネムゼティ賞とハザフィ賞は
日本で言えば皐月賞と桜花賞、しかもこのレース間隔は中1日なのです!
つまり牡馬相手の皐月賞相当のレースを大差勝ちした2日後に
桜花賞相当レースをも勝ってしまう
という離れ業、唖然とする他ありません。

こうしてハンガリークラシック戦線では敵無しとなったキンチェム、
陣営は次走に中央ヨーロッパ最強クラスの3歳馬達が集結する
ジョッケクルブ賞(オーストリアダービー 芝2400M)を選びます。
これまでの相手とは違う真価を問われる一戦となりましたが、
キンチェムの輝きは増すばかりでした。
並み居る猛者たちを蹴散らし、この舞台においても大差の圧勝劇を
演じて見せたのです。

しかもその3日後に芝1600M戦を流して2馬身差の楽勝、更に3日後に
今度は初の芝3200Mという長距離戦に挑戦して10馬身差の勝利と、
もはや開いた口が塞がりません。

その後はドイツへ出向き初の古馬相手のハノーファー大賞(芝3000M)
を6馬身差で軽く勝つと1戦挟んでドイツ最高峰のバーデン大賞(芝2500M)
をも3馬身差で快勝してしまいます。

ここまで強いともう普通にレースをやってもキンチェムに敵う馬はいません。
彼女には徐々に重い斤量が課せられるようになっていきます。
ハンガリー凱旋帰国第一戦の芝2400M戦では59kgを背負いましたが
3馬身差で圧勝、ハンガリー四冠を果したカンツァディーユ(ハンガリー
オークス 芝2400M)では60.5kgを課せられるもこれまた3馬身差で快勝。
ハンデをものともしない彼女の強さに次走では回避馬が続出、
遂には単走でレースが行われるに至りました。
その後チェコに移動し、芝2400Mを今度は実に61kgを背負い1馬身差で勝利、
次の一戦はまたもや全馬尻尾を巻いて逃げ、2度目の単走となり3歳のシーズンを
17戦17勝で終えました。

続きます。

コメント


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キンチェム

すごい( ̄○ ̄;)

いしい | URL | 2014年10月21日(Tue)06:01 [EDIT]


>いしいさん
いやーまさに伝説!
なんというか人の手で整備されたような
今の競争馬とはまた別次元の生命の力を
感じてしまいます。

けん♂ | URL | 2014年10月22日(Wed)10:41 [EDIT]


 

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