けいけん豊富な毎日

思い出の名馬(グラスワンダーpart3)  担【temporalis】

※第1章は→ココ
 第2章は→ココ

第3章『死闘の果て、そして・・・』

そして古馬となった翌年、再び脚光を浴びる事になったグラスワンダーでしたが、
またもやアクシデントに見舞われます。
春緒戦に予定していた日経大阪杯を目前に馬房で暴れ、
左眼瞼に裂傷を負ってしまったのです。
ようやく復活を果し、さあ今年は快進撃!という矢先だっただけに陣営は
『またか』と肩を落としました。

止む無く大阪杯は回避、京王杯スプリングC(東京芝1400m)での
仕切り直しとなりました。
順調さを欠いた上、前走有馬記念から一気の距離短縮ですから不安が無い筈もありません。
それでも蓋を開けてみれば中段追走から直線では一気の差し脚でエアジハード以下を完封、
『やはりグラスワンダーは強い』と世間に印象付けたのです。


ところが続く安田記念(GⅠ)でまたもや思わぬ敗戦を喫してしまいます。
仏GⅠを含むGⅠ勝ち2つのシーキングザパール、今年に入って
東京新聞杯→中山記念と重賞2連勝のキングヘイローと強豪の参戦もありましたが
グラスワンダーの単勝は1.3倍、その支持率は絶大なものでした。

しかし競馬に絶対はありません、直線早目に抜け出し勝利確定かと思われた
グラスワンダーに外からエアジハードが強襲、壮絶な叩き合いの末
ハナ差で敗れてしまったのです。

このレースの道中、グラスワンダーは外国馬ムータテールに接触されて
リズムを崩してしまい、直線で一度も手前を替えることができませんでした。
それでも3着シーキングザパールには2馬身半差をつけていますから
決してグラスワンダーは凡走したわけではありません。
それだからこそ一度は抜け出しながら最後の最後でエアジハードに
競り負けてしまった内容に私を含めグラスワンダーの圧勝を期待した者の胸には
何ともいえないモヤモヤが残ったのでした。

『グラスワンダーは本当に強いのか?』

その疑問の答えは次走宝塚記念で明確になります。


春のグランプリ宝塚記念、ここでグラスワンダーは同い年のダービー馬と
初めて対戦する事になりました。

その馬の名はスペシャルウィーク
類稀なるグッドルッキングホースの上、鞍上は天才武豊と
世間の人気を集める要素満載のまさにスーパースターです。
しかもこの年に入ってAJCC→阪神大賞典→天皇賞春と怒涛の3連勝、
この宝塚記念は凱旋門賞挑戦への壮行レースと位置付けられていました。
当然のように1番人気はスペシャルウィーク(1.5倍)、前走の敗戦で
評価を落としたグラスワンダーは2.8倍の2番人気とやや水をあけられた形です。
この年のメンバーは他に強力な馬が見当たらず一騎打ちの様相、お互いに負けられません。

レースはニシノダイオー逃げで始まりました。
スペシャルウィーク、グラスワンダーともゆっくりゲートを出て中段につけます。
武豊スペシャルウィークがやや前、的場グラスワンダーがこれをピッタリマーク。
ニシノダイオーのペースは1000m通過が61秒ジャストと遅め、
その後もペースが上がらないのを見て取った武豊スペシャルウィークは
馬なりでスーッと先頭へ。
的場グラスワンダーも離されてはなるかと手綱を押して進出を開始、
この時点での手応えはスペシャルウィークの方がウンとよく見えました。

先頭で4コーナーを回るスペシャルウィーク、続いてグラスワンダー、
さあ、直線での一騎打ちです!

しかし、勝負はあっさりと決しました。

4コーナーを回ってからのグラスワンダーの加速力の何たる事か、
瞬く間にスペシャルウィークを捉えると並ぶ間もなく抜き去ったのです。

ゴールでは内回りの短い直線であのスペシャルウィークに3馬身差をつける圧勝劇、
そのスペシャルウィークから3着ステイゴールドまでは実に7馬身の差がついていました。
そこにいたのは3歳時《怪物》と言われたグラスワンダー、
我々グラス党は溜飲を下ろしたのでした。

実はグラスワンダーはこの中間は夏負けがあったそうですが
レース前日あたりから気候が一変、涼しくなって体調が上向きました。
前年の有馬記念の時と言い、何か大一番直前で運のある馬ですね。
このレースの結果を受けスペシャルウィーク陣営は凱旋門賞挑戦を断念、
両雄は秋の対戦へ向け休養に入りました。



グラスワンダーの秋緒戦は昨年と同じく毎日王冠
今年のメンバーは明らかに楽でグラスの単勝は1.2倍と圧倒的な1番人気に推されました。
陣営も《直線は余裕を持って引き付けてから最後に突き放す》という青写真を
描いていましたが、いざ蓋を開けてみるとこれが大苦戦。
ゴール手前100mほどで何とか先頭に立つも全く余裕は無く、
外から猛追して来たメイショウオウドウに一完歩毎に詰め寄られます。
ハナ面が並んだところがゴールでしたが何とか凌いでハナ差の辛勝、肝を冷やしました。

的場騎手によると春の安田記念での接触事故の影響で左回りを苦手にするようになった
という事ですが、圧倒的な強さを見せたかと思えば《並みの重賞馬》に豹変してしまう
グラスワンダーに一喜一憂の日々は続くのでした。

更に悪いニュースが飛び込んで来ました。
またもや脚部不安が生じ、跛行により次走に予定していたジャパンカップを
回避する事になったのです。
この年〝因縁"のエルコンドルパサーはフランス凱旋門賞に挑戦
モンジューとのデッドヒートに僅かに敗れたものの世界の頂点のレースで
半馬身差の2着と世間の話題をさらっていました。
そのモンジューも参加するジャパンカップを勝って力を示したかっただけに
陣営並びに我々グラス党の落胆は容易に想像できるでしょう。
しかもそのジャパンカップを勝ったのはスペシャルウィーク!

秋緒戦の京都大賞典こそ体調が芳しくなく7着に敗れたものの、続く天皇賞秋を
後方からの一気の差し脚で快勝、返す刀で世界の強豪をも完封して見せたのです。
そしてスペシャルウィークは次走有馬記念を最後に引退と発表、
もちろんグラスワンダーへの〝借り"を返して花道を飾る思惑です。


GⅠレースを2連勝で意気揚がるスペシャルウィーク陣営に対して
グラスワンダー陣営のトーンは一向に上がりません。
ジャパンカップ回避後も脚元の具合は思わしくなく、レース前になっても
コズミが抜けないのです。

そんな状態で迎えた有馬記念当日、発表されたグラスワンダーの馬体重は
プラス12キロの512キロ。
快勝した宝塚記念の時が504キロでしたから、そこからはプラス8キロですが
やはり太め感は否めません。
しかし、一方のスペシャルウィークの馬体重は逆に464キロとデビュー戦と並ぶ最低体重、
究極に仕上た結果との見方もありますが、やはり激戦での〝消耗"を感じさせるものでした。
単勝人気はグラスワンダーが2.8倍、スペシャルウィークが3.0倍と拮抗しました。
状態ではスペシャルの方にやや分がありそうでも宝塚記念での強烈な印象が
グラスワンダーを1番人気に押し上げたのでしょう。

そしてゲートは開きました。
これといった逃げ馬がいない中、押し出されるように先頭に立ったのはゴーイングスズカ、
菊花賞馬ナリタトップロード、ダイワオーシュウがこれに続きます。
グラスワンダーは後方11番手あたり、並んで昨年の2着馬メジロブライト、
スペシャルウィークは最後方を進みます。
ゆったりしたゴーイングスズカのペースに殆ど隊列は変らないまま淡々と流れました。
1000m通過は1分05秒2、遅い!

このペースを見越してまず動いたのは的場均&グラスワンダー、
大外に持ち出すと進出を開始、グッと前との差を詰めます。
すかさず武豊&スペシャルウィークもこれに続き、ピッタリとグラスの直後につけ
宝塚記念の時とは全く逆の位置関係です。

隊列が詰まっていた為、4角ではかなり外を回るグラスワンダーとスペシャルウィーク。
グラスワンダーより2頭分くらい内を回った伏兵ツルマルツヨシが一気に先頭に立ち
なかなかの脚色です。
グラスワンダーもさすがのコーナリングでこれを追い、スペシャルウィークは
やや離されたもののすぐに追い上げ体勢に。
しかし、前で踏ん張るツルマルツヨシになかなか追いつけないグラスワンダー、
やはり本調子ではないのか?
後方内からは皐月賞馬テイエムオペラオーが、そして外からはスペシャルウィークが
グイグイ迫って来ます!

最後の急坂にかかってようやくツルマルツヨシを捉えるグラスワンダー、
追い込むテイエムオペラオー、スペシャルウィークもほぼ横一線まで迫り
息を呑む叩き合いです。
ゴール直前でテイエムオペラオーが力尽きて僅かに遅れ、
最後の最後は古馬2頭の意地と意地のぶつかり合いに。
勢いではスペシャルウィーク、しかし、しかし、最後の力を振り絞って
踏ん張るグラスワンダー!

そして、ほぼ両馬並んでゴール板を通過!


《 勝ったのはどっちだ? 》


正直、テレビ画面の角度ではややスペシャルウィーク優勢のように見えました。
武豊騎手も勝利を確信してウイニングランヘ向かいます。
尾形調教師も負けたと思い白井調教師に祝福の言葉をかけ、
的場騎手もグラスワンダーを2着馬の位置に収めました。

私も負けを覚悟し、
〈最後にグラスを負かして引退か。カッコ良すぎるなスペシャルウィーク、ちくしょうめ。〉
とライバルに心の中で悔しさ交じりのエールを送りました。

ところが、武豊&スペシャルウィークがウイニングランを終えて引き揚げたその直後、
場内が騒然としました。

電光掲示板の1着に掲示されたのは何と7番グラスワンダー

誰もが『えっ!』と目を疑いました。
しかし、判定写真にははっきりとグラスワンダーの勝ちが映し出されていたのです。

その差は僅かに4センチ、スペシャルウィーク陣営の執念をグラス陣営の意地が
僅かに、僅かに抑えたのでした。
恐らくは状態は万全ではなかったであろう両馬、それでも持てる力を振り絞って
最後の最後まで死闘を繰り広げた姿には胸を打たれましたね。
しかも3着に負かしたのが後の〝7冠馬"テイエムオペラオーですから、
この世代の強さを示した一戦でもありました。

こうして前年の有馬記念からグランプリ3連覇という空前絶後の偉業を達成した
グラスワンダーでしたが、実質このレースを最後に〝強いグラスワンダー"は
ターフから姿を消しました。

年が明けてから凱旋門賞を目標にスタートしたものの、緒戦の日経賞では
太めだった有馬記念よりも更に18キロ増えて6着惨敗、続く京王杯SCでは
逆に一気に20キロ絞って出走したものの、これまた9着に敗れてしまいます。

凱旋門賞挑戦に最後の望みを賭けて出走した宝塚記念ではレース中に骨折を発症し、
遂に引退となってしまったのです。
前年の有馬記念を最後に担当厩務員が引退、若手の厩務員に引き継がれ
調整が上手くいかなかったというのもありますが、実際にはあの有馬記念の死闘で
グラスワンダーは燃え尽きてしまったのではないでしょうか。
あのスペシャルウィーク渾身の追い込みを封じた執念の踏ん張りは
彼の競争生命と引き換えの究極の底力だった、そう思えるのです。


「この馬の本当の強さを皆さんにお見せする事が出来なかったのが残念でなりません。」


的場騎手はグラスワンダーの引退に寄せてこう語りました。
確かにグラスワンダーは万全の状態で出走した事が一度もなかったのかも知れません。
それでも彼は史上最強世代と言われるライバル達の中で素晴らしいレースを見せてくれました。
日本馬として世界の頂点まであと少しまで迫ったエルコンドルパサー
ダービー、天皇賞春、天皇賞秋、ジャパンカップの4冠を制したスペシャルウィーク
そのスペシャルウィークを皐月賞、菊花賞で負かし2冠馬に輝いたセイウンスカイ・・・
勝負は時の運、どの馬が一番強かったなんて分かる筈もありませんが、
これだけの強い馬達が揃った世代の戦いを見る事が出来た私達は本当に幸せだったと思います。


最強世代の一角で燦然と輝きを放ったグラスワンダー
私は確信しています、的場騎手の《選択》に悔いは無かった、と。



そして種牡馬となったグラスワンダーは毎年魅力的な産駒達を送り出してくれています。
アーネストリー(宝塚記念)、スクリーンヒーロー(JC)、セイウンワンダー
(朝日杯FS)といった芝平地GⅠ馬の他、障害では中山GJ、中山大障害の
2大競争を制したマルカラスカルを輩出。
ダートでもビッグロマンスが全日本2歳優駿を制してオールラウンドぶりを発揮していますね。

母の父としても今年メイショウマンボがオークスを勝ち、牝馬が活躍できないのが悩みの
グラスワンダーにとっては別の形で光が見えました。
個人的にはブログ開設時代にフォーティファイド(アイネスフウジンの孫)、
メイショウバトラーと共に〝応援馬3本柱"を形成したマイネルレーニアが大好きでした。
マイネルレーニアは残念ながら種牡馬にはなれませんでしたが、
最近では馬術大会で大活躍しているとか。
障害に転向していたらもしかしたらマルカラスカルばりの飛越を
見せてくれていたかも知れませんね。
すでに後継種牡馬としてスクリーンヒーローの仔がデビュー、これにアーネストリー、
サクラメガワンダーも続きますので楽しみは尽きません。


偉大なるグラスワンダーよ、お前の血が繋がる限り応援し続けるからね。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いかがでしたでしょうか。

奇しくも明日、エルコンドルパサーが惜しくも敗れた凱旋門賞に
オルフェーヴルが2度目の挑戦をします。

グラスワンダー、スペシャルウィークといった凱旋門賞の舞台に
立てなかった名馬たちの想いも乗せて、是非ロンシャンの長い直線を
先頭で駆け抜けて貰いたいですね(^^)g

コメント


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グラスワンダー大好きでした。
昨日の事の様に思い出しました。
ありがとうございました

さる吉 | URL | 2013年10月07日(Mon)11:58 [EDIT]


>さる吉さん
どうもです(^^)/

私も大好きな馬だったので、当時のことを
一緒にいろいろ思い出しました。
競馬はギャンブルだけではないですよね♪
こうやって語り継いでくれる人あっての
競走馬、という気もしています。

けん♂ | URL | 2013年10月07日(Mon)19:14 [EDIT]


 

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